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SIBGATE管理者April 6th 2001


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(コミック)アリオン
2001年04月26日(木)-06:35:37


今日は、コミックですが、印象に残ったせりふがあるのでご紹介したいと思います。あのガンダムのキャラクターデザインをしたことで有名な安彦良和の「アリオン」というコミックです。もうだいぶ昔ですが、アニメーション映画にもなって劇場公開されています。レンタルショップに行けばあるかもしれません。

さて、アリオンとは、ギリシア神話に出てくる音楽の神の名前なのですが、このコミックのストーリーの中ではポセイドンの血を引く私生児として産まれ、神々の住むオリンポスの高みのさまざまな思わくの中でもまれながら成長していく一人の少年のことになっています。

この少年アリオンを導いていく人として登場するのが獅子の仮面をかぶった「獅子王」という登場人物です。非常に厳しいことをアリオンに投げかけています。その中で一番印象に残ったのが、獅子王がアリオンと闘い、追い詰めていくシーンです。

アリオンは自分の境遇に絶望し、「生きるのも死ぬのも僕の自由だろう!」と言います。それを聞いた獅子王は黙ってアリオンに切りかかります。アリオンもそれに応えて戦いが始まりますが、獅子王の力の前にねじ伏せられてしまいます。そして最後にアリオンの喉もとに剣を付きつけた獅子王はこういいます。(読んだのが20年ほど前なのでうろ覚えです。すいません)

「さあ、そこから一歩踏み出してみろ。そうすれば死ねる。おまえの意志で死んで見せろ!」

アリオンはそこで一歩も動けずにくずおれ、座り込んでしまいます。そのアリオンを見た獅子王は剣を収め、こういいます。

「おまえは今目の前にある死を選ぶことすらできなかった。いいかアリオン。人は己の生き死にすら自分では選べない存在なのだ。」

この獅子王のせりふ、クール(かっこいい)だとは思いませんか?

よく、『人間は生まれてくる時代を選ぶことはできない』ということを言いますが、産まれてくるときは何もわからない赤ん坊ですからほんとうに選ぶことはできないので、ある意味わかりやすい言葉です。ですが、ある程度成長した後での生き死にの問題は自分で選択できるように感じられる話です。それなのに、それすらも「選択できない」というのは、当時の私にとって驚きでした。

私は、特に不幸だとは思いませんが、一つの難しい境遇に産まれていると思います。妹もそうです。そして私はその状態や環境に対して選択する権利も力も持たないのですよね・・・。ですから、これはもうどうしようもないことなのです。そのなかでの「生き死に」は自分では決められない。つまりはあらゆる問題の発生は自分ではどうしようもないということです。

けれど、それで終わりではありません。選べないから悲観したり諦めたりするということではないのです。なぜなら獅子王のせりふはこう続くからです。

「ならば生きろ、アリオン。生きてその生の証を手に入れて見せろ・・」

選べないことを知った上であえてその選択肢を掴み取れというのです。当時高校生の私には理解を超えた話ではありましたが、なにか、からだの奥底にある力の一部を覗いた気がしました。いつ自分の命が尽きるときが来るかもわからないのだから、その命を精一杯生きろということなのでしょう。そう言ってしまえば良く聞くせりふです。このせりふのすごいところは、単に「生きろ」というのではなく、「生きるも死ぬも、おまえの自由や権利などではない」という前提を置いていることなのです。

コミックでは、このせりふをはく獅子王をぐっとにらみつけながら聞いているアリオンがいます。闘いに敗れ、悔しい思いをしているアリオンがいます。いつかこの男を超えたい、そう願うアリオンが描かれているんです。

そしてそれを見守る獅子王がいます。アリオンが戦いを挑む相手として存在しつづける覚悟を持った獅子王がいます。そしていつかアリオンが自分を打ち負かし、その先へ進んでいくことを望んでいる獅子王がいます。アリオンに対する深い愛情がそこにはあるのです。

20年前の私は自分をアリオンに重ねていました。そして今、私は獅子王に自分を重ねます。我が子、そして私が接する若い人達に対して、見守りながらも厳しい態度を時としてとるということの大事さをかみしめています。

私もいつか、我が子や若い人達と剣を交えることがあるでしょう。それは本当に刃物で切りつけあうのではなく、言葉と言葉のやり取りの中で厳しいことを言い、人生の本当の選択とはなにかを問うということです。その時のために、私は剣術ではなく話術とそれを支える気持ち、そして私が問いかけるその問いに対する私なりの答えや「こころ」を鍛錬していかなければなりません・・・。

20年前は、人が生きていくことの厳しさを教え、今は人を育て見守ることの厳しさを教えてくれる、読んで損はないコミックだと思います。

中公文庫コミック版
アリオン1〜4 ISBN4122028078(1巻)
安彦良和 中央公論新社 1997/03出版 16cm 259p


hirowoさん 


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